無所属で挑む仁木氏、与野党支持層に配慮【連載断面21衆院選とくしま】
「今回は無所属で、旧民主を軸として自民、公明、そして共産までも、幅広い皆さんの思いを受け止める候補者として出発します」。19日朝、衆院選徳島1区の元職仁木博文氏が地元阿南市で開いた出発式で、マイクを握った仁木啓人県議はこう力を込め、政党を超えた支持を呼び掛けた。
過去6度にわたって自民前職の後藤田正純氏に敗れた仁木氏。これまで一貫して旧民主系候補として戦い、旧民主党や旧民進党の県連代表も歴任した。今回も立憲民主党から公認の誘いがあった。それでも無所属にこだわったのは、保守票を取り込まなければ後藤田氏に勝てないと肌身で感じてきたからだ。
さらに後藤田氏の公認を巡る自民県連の内紛から、県連と公明県本部が自主投票にすると決めた。保守層の亀裂は仁木氏にとってチャンスといえる。公示前に徳島市内のJA支所で開いた屋外集会には、これまで後藤田氏を支持してきた有権者も含めて数十人が集い、仁木氏も「追い風を感じる」と言う。
仁木氏は選挙戦で「今回は(新型コロナウイルス対策を問う)コロナ選挙だ」と訴え、現場を知る医師の立場を強調する。自公政権を声高に批判せず、政党間の対立を際立たせない訴えを展開しており、幅広い有権者の支持を得たいとの狙いが透ける。
一方で、公示前日の18日、仁木氏は野党共闘を目指す市民団体「オール徳島」との政策協定に調印し「市民と野党の共同候補」として推薦を受けた。国政4野党(立民、共産、社民、れいわ新選組)と安全保障関連法廃止を求めるグループ「市民連合」が同意した共通政策に合意し、野党系候補としての旗色を鮮明にした。
協定には立民県連が参加を見送り、本格的な野党共闘態勢はならなかった。ただ、立民の福山哲郎幹事長は16日の記者会見で、全国で野党が競合せず候補が一本化された選挙区として徳島1区の名を挙げた。
19日、共産党県委員会が比例四国ブロックの候補のために徳島駅前で開いた出陣式で、上村秀明県委員長は「共産は野党共闘に努力し、徳島でも仁木さんで共同(候補)ができた」と政権交代を目指す姿勢をアピール。仁木陣営の選対本部長を務める長池文武県議も並んで立ち「共産党の皆さんの応援はありがたい」と頭を下げた。
こうした動きは、保守層の取り込みを目指して無所属を選んだ意図と矛盾するように見える。
また2017年の前回衆院選では、仁木氏は土壇場で民進党から安全保障関連法を容認する立場の希望の党に移り、県内の野党共闘態勢が瓦解(がかい)した経緯もある。仁木氏は「前回は民進党が希望の党への合流を決めたため。政治家としての歩みはぶれない」と述べ、軸足はあくまで野党側にあるとする。
新型コロナ対応に力を注ぐ無所属候補をアピールしつつ、保守、革新の枠を超えて幅広い支持を集められるか。危ういバランスの上での戦いが続く。
徳島1区には仁木氏、後藤田氏のほか、日本維新の会新人の吉田知代氏、無所属新人の佐藤行俊氏も立候補している。