「大学の学費って高くない?」「選択的夫婦別姓への賛否は?」 徳島大で立候補予定者を招いて公開討論会
衆院選の立候補予定者による公開討論会「若者の明日を語る会―衆院選立候補予定者VS学生」が14、15の両日、徳島大常三島キャンパスあった。企画したのは、選挙啓発をする徳島大生のグループ「TYME(タイム)」。14日の徳島2区の回には立候補予定者の中野真由美さん(立憲民主新人)と久保孝之さん(共産新人)、15日の徳島1区の回には後藤田正純さん(自民前職)と仁木博文さん(無所属元職)が登壇した。学生からは学費やジェンダーなどに関する質問が出たほか、若者の政治への関心の低さについての問題提起があった。
■「大学の学費って高くない?」
討論会の最初の話題は高等教育機関の大学の学費だ。TYMEが討論会に先立ち、徳島大常三島キャンパスで実施したアンケート(回答者65人)では、「現在の授業料は妥当ですか?」という質問に「高い」と答えたのが25%、「少し高い」は38%。約6割が「高い」と捉えている。「大学生活で金銭面では困っていますか?」という問いには「少し困っている」が最多で44%、「とても困っている」と答えた学生も2%いた。コロナ下において、経済的困難を抱えている学生が多い実態が浮かび上がる。

会。学生(中央)からの質問に2人が答えた=14日、徳島大けやきホール
日本ではバブル崩壊後の長引く不況、非正規雇用の拡大などによって経済格差が拡大した。高等教育費における私費負担の割合も高く、家庭の経済格差が教育格差を招きやすい。給付型の奨学金が少ないことも課題だ。
最も利用者が多い日本学生支援機構の貸与奨学金については、2019年12月時点で、3カ月以上の返済延滞者が約15万人に上る。同機構が実施した「奨学金の返済者に関する属性調査(19年度)」によると、延滞者の中での正規雇用率は40・7%だったのに対し、無延滞者では74・3%と大きく差が開いている。返済が滞る背景には、不安定な雇用状況があるとみられる。
政府は20年度から、「修学支援制度」を導入。経済的に困窮する学生に対して給付型の奨学金を支給したり、授業料・入学金の免除や減額を行ったりしている。ただ、支援を受けるには、世帯収入のほか、学業成績の基準を満たす必要がある。特に在学中に制度利用を継続するには、厳しい成績の要件をクリアしなければならない。
中野さんが所属する立憲民主党、久保さんの共産党はいずれも公約に高等教育の授業料の引き下げを掲げている。中野さんは「1975年は国公立大の学費が年間3万6千円だった。今は53万5800円。『私学との差を埋めるため』として授業料は上がってきた。昔は働きながら大学を出た人がたくさんいたが、今は同じことができる額ではない」と主張。久保さんは教育にまで新自由主義の「自己責任」の考えが適用されていると指摘し、「社会を担う人をつくる高等教育の学費は、政治が責任をもって引き下げ、奨学金を給付していくことが必要だ」と訴えた。無所属の仁木さんも「家庭の経済状況によって若い人のチャンスをつぶすのは個人、国家にとって大問題。高等教育まで無償にすべきだ」という考えを示した。
学生から財源を問われると、中野さんは「国の予算から削れるところはあるはずだ。自治体の協力も得られるかも含めて検討しないといけない」、久保さんは「日本は株取引に関わる税率が低い。富裕層や大企業は株取引で儲かるのが今の仕組み」とし、この税率を上げることで財源をつくる案を提示した。仁木さんは「ダムや高速道路をつくる際に使っていた国債を教育にも使えるようにする」としたほか、寄付による奨学金制度の拡充も提案した。
自民前職の後藤田さんは「結果ではなく機会の平等が大事で、無償化が理想」としつつも、財源の問題も指摘。自治体や地元企業が地元の教育機関に寄付することで、徳島に人を呼び寄せるなど、「ただ無償にするのではなく、みんなを巻き込んで前に進む社会がいい」とした。
■「選択的夫婦別姓への賛否は?」
ジェンダー平等は若者にとって大きな関心事であり、また与野党でカラーの違いが際立つテーマでもある。討論会では、学生が「選択的夫婦別姓に賛成か、反対か。またその理由を」と問い掛けた。

立憲民主党は「早期実現」、共産党は「いますぐ導入」を公約に掲げている。自民党は公約の原案に記されていた「夫婦の氏に関する具体的な制度の在り方についてさらなる検討を進める」という一文を削除している。党内には賛否があり、導入反対派に配慮したとみられている。
討論会では中野さん、久保さん、後藤田さん、仁木さんの4人全員が制度導入に賛成の立場を表明した。
選択的夫婦別姓制度導入の機運が盛り上がったのは96年。法相の諮問機関である法制審議会は、選択的夫婦別姓制度を盛り込んだ民法改正要綱を答申した。しかし、自民党保守派の反対によって改正法案の国会提出には至らなかった。現在、夫婦同姓制度を採用しているのは世界で日本だけ。9割以上の夫婦で改姓するのは女性の方で、国連の女子差別撤廃委員会は「差別的な規定」として再三にわたって改善を勧告している。内閣府が2017年に男女5千人を対象に実施した調査(回収率59%)では、選択的夫婦別姓制度の導入への賛成派が42・5%に上り、反対派の29・3%を大きく上回った。全国の地方議会では制度導入を求める意見書が相次いで可決されている。かつて推進の立場で議員活動をした菅義偉氏が首相に就いた際には議論の進展が期待されたが、制度反対派の意向を強く反映した「第5次男女共同参画基本計画案」の改定案が了承され、制度導入に向けた動きは遅々として進んでいない。
後藤田さんは「われわれの党でも夫婦は同姓じゃないと駄目、と(言う人もいる)。しかし同姓だから家族が幸せかと言えば別問題」とし、「慎重に議論しながら前に進めていくべきだ。法の下の平等もある。別姓にしたい人がいるなら第三者は反対できない」との見解を示した。
■ 6割が「立候補予定者を一人も知らない」(徳島大生対象のアンケート)
「今回の衆院選で立候補(予定)者を一人も知らない人が64%でした」。TYMEメンバーがこのアンケートの結果(回答者:徳島大生65人)を発表すると、登壇している立候補予定者は一様に、複雑な表情を見せた。
問いは「今回の衆院選における立候補(予定)者をどれだけ知っていますか?」。11%は「全員知っている」、25%は「数人知っている」と答えた。
「投票日を知っていますか?」との問いに「知っている」と答えたのは20%、「選挙に行きますか?」との問いに「行く」と答えたのは49%にとどまった。一方で、「今の政治に不満はありますか?」との質問に23%は「ある」、40%は「少しある」と答えている。
徳島の若年層は全国的に見ても投票率が低い。17年の衆院選では10代の投票率は31・59%で、全国最低だった。

このアンケート結果に対し、久保さんは「政治への不満があるのに、投票に結び付いていない。『投票しても変わらんでしょう』と言われることもある」とした上で、「野党共闘の結果、一票で政治を変えることができると実感してもらえるのが大事だ」と述べた。中野さんは「候補者の側の発信の仕方が悪かったのかもしれない。新聞や紙媒体以外でのアピールについて反省する」とした。
7期衆院議員を務めた後藤田さんに対しては、学生から率直な質問が飛んだ。「ニュースでは政治家の不祥事がいろいろと報道され、国会議員にいいイメージが持てない。どうにかならないのだろうか」との指摘に対し、後藤田さんは「(不祥事は)大問題だと思っている。そういう人たちには投票しなければいいと思う」と、選挙で有権者が判断すべきだと答えた。その上で、若者の政治への関心の薄さについては「わたしどもの発信力のなさを感じる。SNSを比較的使っている方だが、加速させたい」とした。
仁木さんも「政治には無関心でいられるが、無関係ではいられない。だが、なかなか伝わらない」ともどかしそうだった。
主催したTYMEは選挙の啓発活動をする学生グループで16年から本格的に活動している。今回の討論会に向けては10月に入ってから準備を本格化。立候補予定者の事務所を訪問し、登壇要請をした。コロナ下とあって、会場の参加者は上限50人までに絞った。共同代表を務める堀井麗以さん(22)、矢田詩音さん(22)は「政治家と実際にやりとりをすることで、距離を縮められたのではないか。引き続き、期日前投票の呼び掛けなど、できることをしていきたい」と語った。
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4人の登壇者のほか、1区には吉田知代さん(維新新人)、佐藤行俊さん(無所属新人)、2区には山口俊一さん(自民前職)が立候補を予定している。吉田さんと山口さんは都合が合わずに討論会への出席を見送った。佐藤さんは出馬判明が開催の直前だったため、TYMEが意見交換会を別途設けることにした。
討論会ではこのほか、年金や就職活動もテーマに上がった。討論会の様子はノーカットで徳島新聞YouTubeチャネルで配信している。