2021/10/02 05:00

飯泉知事、衆院選不出馬 どたばた劇に翻弄 一部首長は批判

【出馬表明 幻の原稿】飯泉知事が県議会本会議場の知事席で手にしていた原稿。「総選挙に出馬する」という文字に自ら赤を入れ、その後に知事続投を表明した。直前まで出馬の意思があったことがうかがえる=1日正午ごろ(秋月悠撮影)

 自民党県議が衆院選への出馬を促して半年。1日に閉会した県議会9月定例会で立候補を表明する意向を固めていた飯泉嘉門知事が一転、知事職を続けると明言した。「いずれは決断」「知事では限界がある」。これまで県議会で含みを持たせる発言を繰り返してきた知事。衆院選での厳しい情勢がささやかれる中、自民県議の説得を受け入れた。「どたばた劇」に翻弄(ほんろう)された県職員は困惑の表情を浮かべ、一部の首長からは批判の声も上がった。

 知事は午前10時、「すっきりした感じで議会最終日に臨みたい」と笑顔で本会議場に入った。しかし、知事の国政転身を促してきた最大会派・県議会自民党がその直前に総会を始めていた。本会議が開けないため知事は控室で待機した。

 程なくして、自民県連幹事長を務める嘉見博之氏ら自民県議3人が、大勢の報道陣をかき分けるように知事の元へ。ドア越しに知事の笑い声が聞こえる。ある県議は入室前、「(国政へ)行くというなら、こちらも覚悟を決めるが...」と不安そうに語った。

 約1時間にわたり嘉見氏ら県議3人が断続的に出入りした後、知事が控室から姿を現した。会談の内容を聞く報道陣に「いろいろ議案のこととか」「決断は一つだから」と返し、本会議に臨んだ。

 自席に座った知事は手元の原稿の文章を直すためペンを走らせた。本会議では動議が出され、知事職を続けるよう求める決議案が可決された。「熟慮に熟慮した結果、衆院選には出馬しない」。知事は議場を見渡しながら、かみしめるように語った。閉会後、報道陣に「県議会の場で出馬要請を受けたのだから、県議会の決議はしっかり尊重したい」と強調した。

 本会議の模様は県庁内で放送され多くの職員が知事の発言に注目した。40代男性職員は「衆院選に出ると思っていたので拍子抜けした」。50代女性職員は「動議が出た時に雲行きが怪しいと思った。一日がとても長く感じた」と話した。

 県内のある首長には午前8時ごろ、後藤田博副知事から「知事が出馬を決心された。よろしくお願いします」と電話があった。ところが午後1時半ごろ、別の首長から不出馬を電話で知らされたという。「こんな大きな決断がころっと変わるのは聞いたことがない」

 別の首長は「知事を持ち上げた県議にも問題がある。県内の首長は皆、困惑していると思う。知事の求心力低下は止められないだろう」と話した。(社会部取材班)

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